生徒に悪意があろうとなかろうと、生徒は思いついたことを突然教師に話しかけてくる。返事をすると授業が脱線していく。こんな時、ぶれない授業をするためのささやかなコツを紹介する。
TOSS高校通信4号掲載論文、TOSS北海道推薦
速さの授業で、ビデオを持ち込む。
説明1.これからスピードメーターが映るビデオを見てもらいます。
指示1.車のスピードメーターの針が、時間と共にどのように動くのか、グラフにします。
準備に少しもたついたため、教室はややうるさくなっていた。
興味を持って待っている生徒と、手遊び・私語の生徒が半々になっていた。
「では、どうぞ。」
そう言って、ビデオの再生を始めた。
高校生の中には自動車に強い興味を持つものがいる。いわゆるやんちゃな生徒だ。彼らが口々に何か言い始める。すでに大半の生徒は目を画面に向けている。数人、下を向いているものもいるが、友人の声につられ、ほぼ全員が画面を見る。
「先生、車、何?」
鈴木君が話しかけてくる。彼は廊下でも挨拶してくる生徒だ。授業中も積極的に参加する。悪気があってのことではない。
私は、彼に目を合わせたが、取り合わない。
「グラフを書きます。」
鈴木君はにこにこ話しかけてくる。
「先生の車、何?」
私は鈴木君の目を見て、
「車のスピードメーターの針が、時間と共にどのように動くのか、グラフを書きます。」
と答えた。
鈴木君はめげずに話しかけてくる。私の表情が穏やかだからだろう。
「先生、車、何乗ってるの?」
私は鈴木君にはにっこり笑いかけ、全体を見回した。少しだけ、声を大きくして言った。
「車のスピードメーターの針が、時間と共にどのように動くのか、グラフを書きます。」
鈴木君を見ると、にっこり笑い返してきた。そして黙ってグラフを書く作業を始めた。
このやりとりの最中に、尻馬に乗ってくる生徒も現れなかった。却って、だんだん静かになっていった。
生徒に悪意がない。真 面目な子のように取り組めないが、勉強しようという意欲はある。
だから、注意はしない。無視もしない。認めていることを示す。
穏やかに見る
のである。
そして、今何をするのか、ハッキリさせる。作業指示を繰り返すのである。余計なことは言わない。余計な言葉が入ると、指示にブレが出る。そこを生徒に突かれる。授業が崩れていくのである。
だから、はじめから無駄のない言葉で指示をする。
何回言ってもぶれない言葉で指示をする。
穏やかに淡々と3回繰り返せば生徒はわかる。
途中何度も生徒の問いかけに答えそうになったが、我慢した。
まぐれで出来た事実だった。しかし、「指示がぶれない」ということが少しだけわかった瞬間だった。