レッスン中にストックを持つ姿勢が気になったとき、短時間の部分練習として取り組む。対象が誰であれ、何人であれ、指導可能である。
気になるとは、
である。
生徒を一列に並べ、模範演技(資料8=準備中)をしながら、説明する。
趣旨説明1
ストックの構え方を練習します。新聞を広げて読むように両手を広げます。手首は外に返し、ストックの先を外側に開きます。この手とストックを使ってやじろべえのようにバランスを取るのです。
指示1
隣とぶつからないように前後にずれて、その場でやってみましょう。
列の上から順に個別評定をする。○の時は「合格」、「いいですね」などと言う。
そうでないときは「はい」、「そうですね」などと言いながら次の手順で姿勢を矯正する。
自己点検方法
本人が正面を見て、自分の手が周辺視野の下端(約8時20分の方向)に認識できれば、手の位置はちょうどよい。この時、ストックの先は雪面に接している。
真横から見ると、拳がへその高さでぐっと前に突き出され、スットクは斜めになり、ストックの先が雪面に接している。
高さが何センチメートルとか、肘の角度が何度とかいった細かなことは気にしない。立って新聞を広げて読む姿勢を意識できていることが大切である。意識があれば自分で判断できる。
指示2
では、滑りながらやってみましょう。ハの字直滑降で滑ります。先生が合図をしたらスタートして下さい。
ストックを持つ姿勢が運動課題なので、滑り方は何でもいい。プルークファーレン(ハの字直滑降)が紛れがなくて一番いい。生徒の技術程度に応じ、プルークボーゲンでも、パラレルターンでも何でもいい。次々に練習させる。
長くてごくゆるい緩斜面がある場合、以下に示す変化のある繰り返し練習に取り組む。斜面がない場合はあっさり、違う練習に移る。
指示3
二の字直滑降(パラレルの直滑降)でやってみましょう。
指示4
片足直滑降でやってみましょう。両手をやじろべえが揺れるときのように大胆に動かしてバランスをとります。
この練習と次の練習では、指導者はわざとバランスを崩し、言葉通り両手を大きく動かしてバランスを取ってみせる。
指示5
片足斜滑降でやってみましょう。
指示6
片足ターンでやってみましょう。
どの場合でも評価の観点は腕とストックの構え方(姿勢)である。例えば、指示6で片足ターンをさせるとき、生徒は片足ターンを上手にやろうとして手の構えがおろそかになりがちである。ターンが上手であることは認めつつも、手の構えについて評価する。
評価の際に注意することは「新聞を広げて読む姿勢」になっているかどうかである。この評価基準は個人差が大きく幅の広い判断基準である。本人が「新聞を広げて読む姿勢」を維持していると思っているときに指導者がダメといってしまう可能性が大きい。だから、細かなことを注意してはいけない。
どうしても直したいときは、例えば次のように言う。
「もっと厳しく言えば、手をあと3cm前に出します。」
うまくできない原因の一つに姿勢に対する勘違いがある。姿勢が問題なのではなく、姿勢によって作られるバランスが問題なのである。良い姿勢は結果なのである。バランスを維持するために手、腕、ストックを柔軟に運動させる。その結果、良い姿勢が維持できるのである。初心者はここを勘違いし、見た目の良い姿勢で固まってしまう。上手な人は止まっているように見えてもとぎれることなく運動しているのである。とてもバランスよくなめらかな運動なので止まっているように見えるだけなのである。
姿勢が固まってしまっている初心者を矯正することは困難である。身体的にも心理的にも目一杯一生懸命頑張っているからである。ゲレンデの斜度にも、スキー操作にも十分慣れ、心理的な余裕ができたときが、無駄な力が抜けた対応力のある良い姿勢に矯正するチャンスである。